優しい夫
一寸立派な電話帳を貰った。
今までの薄く二冊ほどになっていた古い電話帳を、ちょうどこの機会に書き替えることにした。夕餉時、何気なく夫にそんな話をしていると、会社勤めをしているのに、「僕がやってやる」と言うのである。「え?助かるわ」と話はとんとん拍子に進み、大変ありがたく頼むことになった。
そして翌週の日曜の休日、彼は一日掛かりで頑張って、住所・氏名・電話番号を書き移してくれた。
こうして十年程世話になった古い電話帳はゴミ箱行きとなった。
一週間ほど、友人に、酒屋にと電話をし、重宝していたが、ある日、本屋の電話番号が見当たらないのだ。
それから更に一、二週間経ち、一ケ月を経て、見つからない番号が結構あることに気が付いた。
「貴方、おかしいわ。折角、電話番号を書き替えてもらったのに、見付からないのが時々あるのよね。どうしたのかしら?」
「あっ、古い電話帳の君の字の読めないところは書かなかったからね。」
「まあ、どうして聞いてくれなかったの?」
すべては後の祭りである。
