天下の回りもの

2014年2月28日 0 投稿者: seiko

ある歯科医院の昼下がり。

60歳位の男性が会計を済まそうとして財布を開いた途端、小銭を10枚余りばらまいてしまった。「金が逃げて行くよ。安物の財布を使っているからなあ。金を貯めるには高い財布を使わなきゃダメなんだってよ。」と、笑いながら支払いを済ませて帰って行った。

待合室の私は、「ふん、なるほど」と思ったが、よく考えてみると、私の三人息子、娘はみな、ブランド物の、彼の言う「高い財布」を使っている。良く知らないが、きっと嫁達もそうであろう。だが自慢ではないが、誰一人として金を持っている様子はない。

これはどういうことなのだろう。「む?」もしかしたら逆なのではないか。ブランド財布を買う人は他の物もみたブランド好みだから、金が逃げて行くのではないだろうか。

私もブランド品の財布を使っているが、金の方で寄って来る気配はなく、いつも羽根のあるごとく逃げて行くばかりだ。実はこの財布も自分で買ったのではなく、娘からプレゼントだ。自分で買ったものでなければ駄目ということなのだろうか。

それにしても特別の買物の用事がない限りは中身は2万円前後であり、落とすことを用心して余り入れておかないのだ。自分でも笑ってしまうが、入れ物の方が五倍位するのではないだろうか。息子達も同じようなものではないだろうか。まあ勤め人であるから、私よりは少し多く入っているであろうか・・・。もし掏摸に遭ったら掏った方が「こんな筈ではなかった」と悔しがるのではないだろうか。要は、財布だけ高級品にすればお金持ちになれるかも知れないが、それもちと寂しい。

夫の財布は私が買って来る。別に高級でもブランド品でもなく普通の2万円位の品である。勤め人であるから当然中身の方が多い。ガバっと多いと言いたいところだが、これが本当のことを言うと5万円程度の金額になっている。何故これだけかと言うと、前にも書いたが、夫の病気と言おうか、抜けていると言おうか、財布とは限らないが、定期券その他、物を落とすのだから。勿体ないのでこの辺が限度額となるのだ。

話は一寸それたが、要は、普通の財布ではお金が逃げる。夫の場合は落とすのだから当然である。となると、冒頭の男性の話が合って来るのだろうか。ややこしくて話がこんがらかって来た。

要は、財布の高価・廉価を問わず、逃げて行く行かないは、お金に縁があるかないかだけのことであろう。とすると、わが家は、金に縁がある?なし?自ずと解答が出て来る。諦めた方が早そうと思えて来る。

夫がいつも言っているではないか。

「金は天下の回りもの」と。


後日談

久し振りにスーパーで私より10歳位年上の知人に逢い、話をしながらレジに並んだ。

何と驚かされるではないか。彼女は、お金がこぼれるばかりのボロ財布を出したのだった。別にお金に困って財布を買えないのではない。ましてやケチっているわけでもない。普通の奥様なのだ。近頃、一寸ボケ初めたような噂を聞いていたが、その通りなのだろうか。気の毒で「財布が破けていますよ」など注意するにも憚られた。

いつも使っている言葉だが、心を込めて、「お元気で、またね」と言って別れた。