社会貢献
私は禿頭である。俗に言う禿げだが側頭部、後頭部あたりに、まだ名残惜しげにチョボ〱とまだ髪の毛がある。
このようなハンサムぶりを眺めながら、ある時妻は「最初からこんなに可愛い頭になると解っていたら結婚しなかった。」と言うのである。何と言う台詞か!
- 夏は直陽だから暑いことこの上ない。
- 冬は毛と言う暖房がないのでこの上なく寒い。
- 年間通してもてない。
こうして挙げてみると悪いことばかりみたいだが、実は大変良いこともあるのだ。
私は禿で社会貢献しているのだ。
- まず、美容室だ。
理容ではお洒落のイメージがない。髪を切るところなどあまりなく簡単な客なのだ。それなのに前述の側頭部と後頭部あたりが気になり、月2回ほど行く。 - 育毛剤屋
これまでいくつか試しているが、毛髪が生えるどころか、減る一方だ。 - 帽子屋
禿げてから、いくつか買うようになった。娘達にも貰った。 - シャンプー屋
抜け毛が気になり、やや高めの商品を使っている。
以上の四つである。
余談になるが、
妻は頭皮どころか頭脳でもお悩みなのか、他は安物なのに、驚く程高価なシャンプーを使っている。実は1、2ヶ月失敬していたことがある。何せ減り方が倍のスピードなので、すぐに底をつき、無断借用がばれてしまった。
いつもの優しい妻は何処へやら、首を絞められ、もうすぐあの世に行くところであった。「金は僕が運んでいるんだ。」と心で叫び、現実には「ごめんなさい。」と謝り、一件落着。
斯様にして二人して社会貢献しているのだから、そろそろ恩恵を蒙っても良いと思うのだが・・・。
恩恵といえば耳の遠い人は長生きするというが、残念ながら禿が長生きするとは聞いたことがない。朗報を待っているのだか・・・。
さて、久しぶり可愛い孫を見せてやると孝行息子が来訪して、一献を酌み交わすことになった。
「今夜はとても楽しいわい。」と思っていると、息子がしみじみ私の顔を見ている。
「お父さん、ここまで育ててくれてありがとう。」と謝辞でも述べるのかと楽しみに待つこと一分。
「お父さん、頭が顔の延長になっているから、シャンプーいらないよ。洗顔石鹸一つで大丈夫だよ。」
「何くそ、これからも精々社会貢献にハゲむぞ!」
